「どうにかなるさ、なんとかなる ―還暦過ぎた夫婦の初めてのスペイン・ポルトガル旅―」(4)<連載>

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B&Bカフェやまがら文庫オーナー・前田直さんが綴るスペイン・ポルトガル旅行記・第4回目です。

13時になると公営アルベルゲの玄関ドアが開けられ、人気のアルベルゲの受付が始まった。私たちの受付順番は早いので確実に泊まれるはずである。パスポートとクレデンシアル(巡礼手帳)を受付嬢に提出する。受付嬢はクレデンシアルを見て「泊まれない」と言っているようだ。

どうしたことだろう。私たちの顔を見てまた何か言っている。よく聞いて見ると「サンティアゴ・デ・コンポステーラからバスで直接ここに(フィステーラ)に来た場合は、巡礼ではなく観光にあたるので、スタンプは付くが泊まりはダメ」と言うことらしい。ルールなら仕方ない。私たちは近くの民間アルベルゲを紹介され、公営アルベルゲを出た。

フィステーラに来て、早くも2軒のアルベルゲに断られて落ち込んだが、気を持ち直して教えられたアルベルゲを探した。今度のアルベルゲはさほど遠くない場所に、路地を挟んで2軒向かい合って建っていた。

左側のアルベルゲは1階がバールになっているが、暗くてどうも陰気くさい。右側のアルベルゲは白壁の3階建ての宿だ。当然、妻は「右のアルベルゲ」と言う。

ドアのカーテンをくぐると、30歳位の男性と、2人の若い女性がいた。「泊まりたい」と言うと、男性は愛想良く頷き、奥の部屋から宿泊帳と小さな手提げ金庫を持ってきた。宿泊帳にパスポートナンバー等記入して手続きは終わった。料金は1人10ユーロ。部屋は2階の10人部屋で、妻と私はそれぞれ2段ベッドの下を選び、今日の寝床をようやく確保した。

そして、いよいよスペイン最西端のフィステーラ岬に向かう。

靴からサンダルに履き換え、ラフな姿で3キロメートルの道を歩くことにした。

10分も歩くと街はずれの教会に出た。教会の入口では祭りの行進を終えた人たちが、皆にこやかな顔で記念撮影をしていた。教会から先はゆるやかな登り坂で、穏やかな湾と広大な大西洋を左に見ながら歩く。海風が心地よく、ゆっくり歩くこと1時間、とうとう岬に到着した。岬は標高100メートルもあるだろうか、大西洋を一望できる。

駐車場には観光バス、乗用車、オートバイが駐車し、土産店は観光客で賑わっている。岬の先端には白壁の灯台が建っている。外観は日本にもあるような灯台だが、どうもホテルも兼ねているようだ。夜の灯台とホテル、一度宿泊したいものだが料金を考えると身震いがしそうだ。 

岬の先端に向かって歩いて行くと、巡礼道標を発見した。

道標には、はっきりと0キロメートルと表示されている。この岬が全ての巡礼路の終点なのだ。

今は禁止されているが、巡礼者は杖や靴など巡礼で使用したものをここで燃やしたと観光案内誌に載っていた。岬で心を新たにして故郷に帰ったのだろう。今でも焚火をする人がいるようで、岩場のあちこちに黒ずんだ焚火の跡が見られた。広い海原、真っ青な空、白い灯台、沖を走る汽船、フィステーラ岬で大西洋を十分満喫した。岬に座って夕焼けに染まる大西洋の風景を眺めながら妻と💛を語ってみたかったが、この季節のスペインの日暮れは10時過ぎ。それまではまだまだ時間がある。それよりも私たちには夕飯のほうが現実的であり、港にもどることにした。

町外れから道をそれ、急こう配の坂を下りると港に面した海鮮料理店街に着く。時間的には私たちの夕食の時間帯だ。(スペイン人の夕食はもっと遅い)Mさんも、アルベルゲで私たちと同じ部屋のイギリスのお嬢さんも、それぞれの気に入った料理店で食事をしている。

私たちはフィステーラの名物料理、ムール貝の美味しそうなレストランに入り、ビールを飲み海老や魚の海鮮料理を味わいながらスペイン最西端での食事を楽しんだ。パンプローナを出発して1か月、私たちの巡礼に関する全ての旅は終った。明日はまたサンティアゴ・デ・コンポステーラに戻り、さらにスペイン、ポルトガルの旅がはじまる。

(つづく)

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