B&Bカフェやまがら文庫オーナー・前田直さん・芳子さんによるスペイン・ポルトガル旅行記・第7回目です。
ポルト
朝7時、そろそろ町が動き出す時間である。早めに駅に行き、リスボンまでの列車の乗車券を購入しなければならない。
部屋を出てフロントに行くが誰もいない。キッチンのほうで小太りのおばさんが働いているのが見えたので声をかけると、働いていた手を休めてフロントに出てきた。
駅までのルートを訪ねると、おばさんは笑顔で観光マップを取り出して駅までの道筋にボールペンで線を引き、駅に○印をしてくれた。ホテルを出て少し歩くと、古いレンガの壁が続いている崖の上に出た。
眼下に幅150 m程の大きな川が流れていて、大小の観光船が行き来している。ドウロ川である。川には2つの大きなアーチ橋が並んで架かっており、一本は地下鉄も走っているドン・ルイス1世橋、もう一本はインファンテ橋、両方とも高さが50 mはある有名な橋のようである。ドン・ルイス1世橋の近くには観光船乗り場が見える。その手前には大きな教会があり、観光マップにはカテドラル(大聖堂)と記されている。
この辺一帯はポルトの観光スポットらしく多くの人で賑わい、カテドラルを中心に、古い中世の街並みが広がっている。ここで観光しないわけにはいかない。今日中にリスボンに行く予定を変更して、ポルトにもう一泊してゆっくりとポルト観光に決定だ。天気も最高。
カテドラル広場の交差点前にインフォメーションがあったので、今日泊まれるホテルがあるか聞いてみる。係の女性は、近くのホテルを紹介してくれるが料金がちょっと高すぎる。妻が「リーズナブル ホテル」と切り出すと、係の女性は分かったという素ぶりで、観光マップに「ここが良い」と赤○印を記してくれた。お礼にいつもの折り鶴を手渡すと大変喜んだ。
ホテルはすぐに見つかり、そこは巡礼者専用のアルベルゲだった。今思うと、インフォメーションの係は、リュック姿の私たちを見て巡礼者だと判断したのだろう。アルベルゲは朝食付きで1人20 ユーロと格安で、しかも新しい建物だ。そしてポルトの観光地の中心地だ。チェックインし、2階の8人部屋にリュックを置き、早速観光に出た。カテドラルの前から市内観光のオープンバスや馬車などが出ている。
手始めに、私たちはポートワインで有名なワイナリー見学コースの、2両編成の小さなSL型観光バスに乗り込んだ。朝に見たインファンテ橋を渡り、対岸の丘陵地帯にある白壁に囲まれた老舗のポートワイン工場を回って戻る。所要時分は50 分で市内観光はあっけなく終わり、少し期待外れとなった。
次は期待できる観光船だ。行き交う車と観光客をかわしながら狭い商店街を下りドウロ川の桟橋まで行く。
桟橋では大小の観光船が客を乗せ、満員になると次々と岸を離れていく。観光船の所要時間は50 分、市内観光のバスと同じだ。ポルトガルでは50 分が一単位なのだろうか。乗船券を買って小型の観光船に乗る。船は各国からの観光客で満員だ。観光船は干潮時で水位の下がった川を上る。揺れは無く、すぐにドン・ルイス1世橋の真下に着いた。
崖の上から正面に見る橋と、川面から見上げるのでは同じ橋でも全く違って見え、下から見上げるアーチ橋は迫力があり圧倒される。橋を過ぎると川幅は150 mと狭くなり、両岸は崖になった。
さらに1㎞も上るとアーチ型のインファンテ橋に着く。白で塗装されていて美しい橋だ。その後、観光船は2つの鉄道橋をくぐり抜け、やや川幅が広くなったところで引き返した。
船着き場を過ぎ川の流れに乗って河口へと向かうと、風景は一変した。両岸は古いレンガ造りの商館と大きな倉庫や造船場などが並ぶ貨物港の様相となり、古い時代から港が栄えた様子がうかがえる。ポートワインもこの港から日本へ輸出されたのだろう。
観光船は河口が見えるところでUターンし、あっという間に観光船の川巡りは終わったが、バス観光より断然楽しく、また川面を走る風は心地よく私たちはとても満足して船から降りた。
岸壁の通りにはレストラン、土産店等沢山の店が並んでいる。昼食には少し早いので、12 世紀に要塞として建てられたカテドラルを見学することにした。カテドラルでは銀細工の祭壇やゴシック様式の回廊、歴代の司教が着たマントや装飾品等を見学した。広場から眺める中世の街並みは、どこから見ても絵のような美しさだ。
さらにカテドラルから数分ほどの所にあるサン・ベント駅は、駅構内の壁一面が青い色の美しいアズレージョのタイルで造った壁画で覆われており、世界で最も美しい駅の一つと言われるのも充分納得できる見事な駅だ。
駅を出ると、丁度昼食時間帯で駅前の繁華街通りはどこも大混雑している。私たちも昼食をと思ったが、どの店も通りに面するテラス席もどこも満席だ。このポルトで気付いたが、中国人が良く目につく。巡礼中は韓国人が多かったが、ここでは中国人が多いようだ。中国人の若い女性の多くは、顔を白くし真っ赤な口紅を塗っているので直ぐ中国人と分かる。私たちは駅前の繁華街を諦め、駅から少し離れた公園通りの小さなバールに入った。今考えると、何を食べたのか思い出せない。
昼食を終え、また街をぶらぶら歩く。陽射しは一層強くなり猛暑となった。妻は足の裏が痛くなったと言い、歩きが鈍くなってきた。疲れも出てきたのだろう。同じような街並みが続き、ぶらぶら観光も飽きてきたので宿に戻ることにした。
そう遠くまで歩いたつもりはないが、帰りの道は遠く感じる。ようやく公園通りにたどり着いたところで、夕食は宿で食べようという事になり近くのマーケットでカップラーメン、パン、ハム、サラダ等を買い、宿に戻った。キッチンで簡単な調理をして食事をすませた。
ようやく就寝時間(地元の人たちはこれから夕食の時間)となったが、同部屋の人とはまだ誰とも顔を合わせいない。それぞれのベッドにはリュックが置かれており、みんな街に遊びに行っているのだろう。
老人には早寝が一番だ。ベッドに入りうとうとしていると、隣ベッドの上段の人が帰って来た。ゴホン、ゴホンと咳の連続である。女性のようだ。ベッドに入っても咳は止まらず、肺が壊れるのではと思うくらい立て続けに咳をする。昨晩は車の騒音、今夜は咳き込む音で熟睡できそうもない。
もう少しで日にちが変わる頃、最後の同部屋の人が帰って来た。相変わらず隣の女性は苦しそうに咳を続けている。しばらくして突然、“ドン、ガチャン”と大きな音がした。
ビックリして目が覚め、時計を見ると1時。ベッドのカーテンを開けると、最後に帰って来た向かいの男性がコーヒー入りのボトルをベッドから落としたらしく、床一面にコーヒーがこぼれていた。男性は飛び起き、床のコーヒーをタオルで拭きはじめた。やれやれ、文句も言えずじっと目を閉じ、眠りに就いたのは夜中だった。
(つづく)
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