文具特集・特別寄稿文「ゼブラの筆ペンと私」

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「MIZUTAMA」6号「文具特集」の最後の記事は、副編集長・土田による寄稿文です。

漫画を描きはじめて、特技を身につけたいと思い、ツヤベタを極めることにした。
艶やかな黒髪になるように筆で塗る作業だ。
特技があれば、アシスタントになれるかもしれないという淡い期待もあった。

検討し、選んだのはゼブラの筆ペン(FDS-5B1)。
決め手は筆のコシの強さ。意図した線が素早く描ける。
ただ、穂先がまとまりにくく、スッと線を抜くためには練習が必要だった。

このペンで練習するうちにツヤベタの楽しさを知った。
線の流れが揃うと、サラサラの髪に見えて感激した。
感覚を忘れないように毎日描いていた。

出版社に持ち込んだ原稿は、ツヤベタを高く評価され、アシスタントの声がかかった。
アシスタントへの道はこの筆ペンのおかげで、ついに切り拓くことができたのだ。

その後、漫画作業のデジタル化の波に乗り、清書以降の作業はパソコンで行うようになる。
毎日使っていた筆ペンも、引き出しで留守番する日が多くなった。

数年して再びペンでツヤベタをしようと思い、売り場に向かった。
しかし、何度見てもゼブラの筆ペンがない。
インターネットで調べてみる。
……ない。
公式サイトの一覧に載ってない。

ああ、廃番‼

最後に見かけたのは、近所の本屋。予備を買うべきか? いや、また今度でいいか。また、今度…、今度……。

今度などなかった。
後悔した。
効率とラクさを採ったがゆえに、培った技術とそれを支える道具が消えたのだ。
ブランクを隔てて描いたツヤベタは納得のいく出来ではなかった。

打ちひしがれていると、
「ファンレターをメーカーに送るなり、その筆ペンの良さを発信すればよかったんじゃない?」
と、アドバイスをもらった。ハッとした。
作り手には、ツヤベタに最適という声が届いてないかもしれない。
まだ、この筆に出会ったことがない人がいるかもしれない。

作り続けてほしい文具たちはまだまだある。
これからは「良いものは良い」と作っている人たちにも、周囲にも、広く発信していこうと思う。

こちらの記事は、8月25日(日)「COMITIA」会場で初出し予定の「MIZUTAMA」第6号に再録しています。

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