B&Bカフェやまがら文庫オーナー・前田直さん・芳子さんによるスペイン・ポルトガル旅行記・第9回目です。
リスボン その2
ひさびさにゆっくり起床する。とは言ってもまだ8時過ぎで、ホテルのチェックアウトにはまだ早い。
テレビでは連日、山林大火災の実況放送をしている。消防隊が、地上から空から消火活動をおこなっているようだが、夏の乾燥期で火の勢いは衰えず家々まで飲み込んでいる。この大火災のニュースは7月5日にスペインを離れるまで見ることになった。
翌朝、山林火災のテレビを見ながら、買っておいたパン等を食べ、旅行の支度をする。昨日から窓際で干しておいたソックスを履き、シューズに足を入れ、紐を締めると急にすがすがしい気分になる。
10 時にホテルを出てエドゥアルド7世公園を散策する。公園の丘からはリベルダーテ通り、旧市街地、テージョ川が見渡せる。昨日見た大型クルーズはまだテージョ川の桟橋に停泊していたる。テージョ川の川幅はどう見たって海と思うくらい広い。
公園からリベルダーデ通りに出ると、今日も木陰の下で骨董品の店が並んでいる。妻は装飾タイルで手作りしたブレスレットが並んでいる店で、1個5ユーロのブレスレットを6個注文して「デスカウント」と話すと、店のおばさんは1個分おまけしてくれた。安くて、軽くて、荷物にならないブレスレットは、娘や姉妹たちへの土産だ。(もちろん、土産はこれだけではない)
リベルダーデ通りを過ぎ、旧市街地に入ると路面電車や観光バスなどが行き交い、のんびり歩いていられない。妻は路面電車に乗りたいと言ったが、どこに行くか分からないのであきらめた。(今思えば乗っておけば良かった)
旧市街地を過ぎると、桟橋通りのコロルシオ広場に着いた。石畳の大きな広場には数件のバールが並び、中央には大きなドン・ジョゼ1世の騎馬像が建っている。リスボン市内のあちこちで見た銅像はどれも大きく、高さが5~10 mの代物ばかり。奈良の大仏様は別格として、東京上野の西郷さんの銅像が大きいと思っていたがその比ではない。西郷さんもリスボンの銅像を見たなら、仰天するだろうな。
再度旧市街地に戻り、サント・アントニオ教会、カテドラル見学の後、遅めの昼食をとりにバールに入った。警笛を鳴らしながら路面電車や車が迷路のような狭い坂道をすれ違う。喧騒に満ちた美しい坂の街並みリスボンの観光もこれで終わりだ。外を眺めながらゆっくりとビールで喉をうるおし料理を頂いた。
食後、少し早いが電車でオリエンテ駅に行き、夜行バス発車時刻までの5時間以上の暇を、ショッピングモールでつぶす。地下から3階にある商店を何度も往復するが、時間は遅遅として進まない。2時間もすると足が重くなり、歩くのが嫌になった。となれば、夕食をとりながら休憩だ。あまり愛想は良くなかったが、昨日入った中華料理店に足が向く。なにも2日も同じ店にと思う。しかし醤油味が恋しい。
昨日とは違う店員だったが、不愛想は同じだった。店を出て3階に上ると、白人の若い男性が私に何か話しかけてきた。何を言っているのだろうか。「○×△ダウンー」と聞こえる。「ははーん、下の階に行きたいのだな」と思い、食堂フロアのエスカレーターの場所を指さすと「サンキュー」と言ってそっちに向かった。外国人に教えた以上、彼が本当にエスカレーターを見つけられるか心配で、後ろ姿を目で追うと、案の定間違った方向に進んで消えた。まあ、その方向にも別のエレベーターがあるから俺の案内も満更ではないと思い、後ろを見ると自分の立っている場所がエレベーターの乗降場であった。彼に悪いことをした。
妻が、「KIRO SUSHI」という鮨店を見つけて来た。行ってみると店員はどうもブラジル系の人たちばかりで日本人は見えない。一人の茶肌の青年は鮨職人らしく、頭に手ぬぐいを巻き、ばかに意気込んでいる。恰好は良いが、手ぬぐいがおかしい。日の丸の両脇に染められている「龍」という漢字が逆さまになっていて、思わず笑ってしまった。「ノー、ノー」と言って正してあげると、今までの元気がなくなり、恥ずかしがってしょげている。
これは元気づけないとだめだと思い、日本から持参した「三陸復興」と染められた手ぬぐいを青年に差し出した。「日本の大津波の遭ったところから来た」と話すと、店長らしき人も大きく頷いた。東日本大震災のことは皆さん知っているようだ。すし店で握り鮨とのり巻きを食べたが、鮨より味噌汁の味が懐かしく、鮨はあまり評価できなかった。料金は重さで決まるので、「キロ鮨」という店名に納得できる。
夜行バス発車の2時間前にターミナルに行き、付近の散策等して時間をつぶす。21 時頃になると大分薄暗くなり、長距離バスの出入りが多くなってきた。しかしセビーリャ行きのバスはなかなか来ない。発車時刻10 分前にようやくバスが入ってきたがすでに乗客が乗っている。始発と思っていたがリスボンの空港から来たようだ。
バスのトランクにリュックを入れ、運転手に乗車券を提示してこの旅行初の夜行バスに乗り込んだ。バスは満員に近い乗客を乗せ、定刻にリスボンを発車した。しばらくして長い橋を渡るともう暗くて周りは見えない。ただ、遠くの川岸に街の灯がゆらいでいるのが見えた。この灯がリスボンの見納めとなった。さようならリスボン。
さぁ! 明日の朝は、またスペインのセビーリャだ。
(つづく)
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