B&Bカフェやまがら文庫オーナー・前田直さんが綴るスペイン・ポルトガル旅行記・第3回目です。
1 地の果てフィステーラ
フィステーラへはサンティアゴ・デ・コンポステーラから約120kmの巡礼道であるが、私たちはバスを利用することに計画していた。宿から10分も歩くとサンティアゴ・デ・コンポステーラのバスターミナルに着く。
ここからはスペイン各地へ長距離バスが出ている。ポルトガルのリスボン行のバスもある。9時発のフィステーラ行きの乗車券を買いに2階の乗車券売り場に行くと、まだ早い時間帯なのか10以上ある窓口の内、半分以上がカーテンで閉っている。とりあえず女性係員のいる窓口に行き、妻の片言の単語で「フィステーラ」と言うと、「あっち」と言って別の窓口を指さす。指示された窓口に行くと今度は「そっち」と言う。窓口に行き並んで待つが、なかなか進まない。乗車券を購入するまで1組5分位はかかっている。
隣の閉っている窓口も同じ会社のようであるが、中にいる社員は知らぬ顔で笑いながら何やら雑談中の様子。こんな時、日本ならすぐに別の人が対応してくれる。しかし、ここはスペイン。待つしかない。ようやく乗車券を購入して1階のバスホームに向かう。
リュックを背負った20人位の巡礼者が、同じバスの到着を待っている。その中の一人が「おはよう」と声をかけてきた。横浜から来たMさんだ。
私と同年代で、巡礼道で何度も一緒になりすっかり顔見知りになった。こうして巡礼が終わっても一緒になる。これも巡礼御縁だ。バスは定刻の9時に出発、30分も走ると郊外にでた。山々に点在する白い石造りの家が田舎の情景をつくり、正にスペインを実感する。
バスは大西洋が見える峠から一挙に海岸まで下って湾沿いの村や町を走りぬける。ガリシア地方の海岸はリアス海岸で、湾内は殆んど波がなく湖のように静かだ。バスは幾つかの港町に停車し、11時過ぎにフィステーラの町に着いた。
終点の停留所の直ぐ目の前は港だ。ウミネコがうるさいくらいに鳴いている。日本のウミネコと鳴き声は同じだが、スペイン訛も入っているのかも。同乗のMさんは宿を予約しているようで、私たちとは反対の少し高級なホテル街の方へ足を向けた。双方「では、お元気で」と、最後の別れになるかも知れない挨拶を交した。(もう何度、最後の挨拶を交わしただろうか)
バスを降り、先ずは今晩の宿探しだ。公営のアルベルゲが近くにあるはずだが、何処にあるかバス停の近くでキョロキョロしていると、真っ赤な派手なワンピースを着た太ったおばあちゃんがやって来た。しつこい客引きのおばあちゃんがいることは、Oさんご夫妻から聞いていたのですぐに客引きだと分かった。おばあちゃんが、私たちに「△A○H□×―――?」と話しかけてきたが、何を言っているのかさっぱり分からない。
妻がストレートにアルベルゲの値段を聞くと、「10ユーロ」と答えた。その程度の料金なら公営アルベルゲとさほどかわらない。泊まることにして、他の白人女性3人と一緒に、客引きおばあちゃんの後について行った。
500mも歩くとおばあちゃんがまた早口で「△Y□W×○-===?」と聞いてきた。「朝食は別料金になると」と言っているようだ。妻が「ブレックファースト、ノー」と断ると、おばあちゃんは憤慨したような仕草をして、坂の上の街並みを指さして「△Y□W×○-==」(あっちのアルベルゲへ行けと言っているようだ。)どうも宿泊を拒否されたようだ。
公営アルベルゲに泊まることにしてバス停に引き返した。バス停に戻ると隣の建物の玄関前に数個のリュックが並んでいる。看板を見ると、さっき探していた公営アルベルゲだ。受付の時間まではまだ時間がある。私達もリュックを置き順番を確保して、近くのバールで軽い食事しながら受付時間を待った。
バールから戻ってくると、石畳の路地では近所のおばさんたちが、色とりどりの沢山の花びらを路に敷き詰めて花びらの路を造っている。どうやら祭りらしい。
すると突然、数発の狼煙があがり、間もなくして路地の奥から数十人の一団が行進して来た。先頭に少人数のラッパ、太鼓の楽隊、その後に小さなマリア像を持った神父らしき人、その周りに白いドレスに天使の翼を背負った子供たち。後列に民族衣装や正装姿の信者たちが続く。天使姿の女の子たちはみんな可愛い。妻はその子供たちに駆け寄ってカメラを向けた。
(つづく)
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