今回は「MIZUTAMA」第6号・特集「仕事道具と万年筆」第6弾。東京・浅草橋のキッチンスタジオ「Kitchen Bee」のオーナー・梅村小百合さんのインタビューです。
キッチンスタジオを訪ねて、仕事につかう文具のお話を伺いました。
浅草橋のキッチンスタジオで発酵食教室・IT系勉強会を開催
浅草橋でキッチンスタジオ「Kitchen Bee」を始めて今年(2019年)で5年目になります。
現在、スタジオで行う仕事のメインは、私が講師として教える発酵食の教室や、私が事務局をつとめるIT系コミュニティ「ものくろキャンプ」の勉強会やワークショップの開催。そのほかにスタジオのレンタル業務、さらに、海外からいらしたお客様にスタジオで日本の家庭料理を楽しんでいただくサービスなども提供しています。
仕事に使う文具を収納している道具箱
キッチン運営の仕事はデスクワークも多く、普段仕事に使う文具を収納しているのが、ナカバヤシの収納ボックス「ライフスタイルツール」です。
これを持つまでは筆記具はペンケース、電卓や伝票はビニールポーチに…と分けていたのですが、ペンケースを入れてビニールポーチも持って…と持ち歩くツールが増えていくのがつらくなってきてしまったんです。
それで、ペンケースにもなり、電卓や伝票などよく使うツールをひとまとめにできるこの道具箱を愛用するようになりました。
道具箱を見つけたのは、スタジオの近くにあるお店。そのときは、少し値段が高く感じられたこともあって「欲しいけど、今買うのもなあ」と躊躇しました。
けれど、その後、別のお店の文房具売り場でも見つけたとき、気が付くと手に取って「ああ、いいなあ」ってパカパカ開けたり閉めたりしていて、自分が欲しいと思っているのを実感したんです。それで、「やっぱり買おう」と決めて購入しました。
道具を揃えて“自分の基地”を作る
「ライフスタイルツール」使うようになって、まずよかったのは、仕事に使う道具を探す時間がなくなったこと。ペンケースに入りきらず別のところにしまっていた物をこの中に収納できるようになって、「あれはどこだっけ…ああ、あそこだった」みたいにバタバタすることがなくなりました。
そして、もうひとつのいいところは、開いて立てて机に置いたときに、ちょっとしたパーテーションのような役割をしてくれるところです。
私が以前働いていた職場では、それぞれの席をパーテーションで区切っていました。それで、自分の周りにちょっとした余裕のあるプライベートエリアがあることで、すごく落ち着いて仕事に集中できていたんです。
なので、今、道具箱を仕切りのようにして置くと、当時の感覚が思い出されて、自分を囲ってくれるものがあることに心が落ち着きます。これは、ペンケースなどではできない、このツールならではの醍醐味だなと感じています。
家のリビングで仕事やちょっとした事務作業をする方は多いと思うのですが、私もデスクワークをするのは、キッチンスタジオのテーブル。そこに道具箱を置くと、必要な道具が揃い、空間を作る役目も果たしてくれる。必要なものがワンセットになったコックピットのようなこれのおかげで、なんとなく自分の基地を設営できている感じがして、とても気に入って愛用しています。
また、この道具箱を使ってみて、自分の周りは自分の自由に好きに作っていいんだ…と改めて実感できました。
振り返ってみると、キッチンスタジオの内装を整えるとき、インテリアコーディネーターさんに手伝ってもらって、家具や道具など自分のお気に入りを一つひとつスタジオに迎えていくことがすごく楽しかったんです。
道具箱はある意味、その小型みたいなもので、これに好きなものを詰めていくことで、机の引き出しに決まりきった道具をしまっておくのではなく、自分が本当に使いたいものを自分の周りに固めていくのが楽しいんだ…ということを思い出しました。
それから、お気に入りを集めてもっと仕事や人生を楽しもう…という気持ちが、私の中で加速していったような気がしています。
食のある空間の楽しさで「キッチンスタジオをやりたい」
キッチンスタジオを始めようと思ったきっかけは、当時いろいろな場所を借りて講座を行っていた「ものくろキャンプ」で「食レポを書こう」と企画をやったことでした。
そのときは、会場に用意してある食材を参加者がそれぞれ自分で盛り付けて完成させて、写真を撮ってブログを書く…というイベントを開催したんですが、その空間を何よりも自分自身がすごく面白く楽しんでいたんです。
私は食べることはとても楽しいことだと思っています。呼吸をするのと同じで、人は必ず何かを食べるし、一日の中で絶対何回かは食べなくてはいけない。そして、それが心の楽しみになることもある。
食べ物がある空間で人が楽しそうな顔をしているのを見たとき、食のある空間を自分自身で作ってみたいなと思い、キッチンスタジオをやってみようかなと心が動いたんです。
その後、勤めていた会社をやめて本格的にキッチンスタジオ経営の準備をスタート。「やってみたい」とわりと気楽な気持ちで始めたことではありましたが、これまでもらっていたお給料を手放すわけですから、退職はやはり勇気がいりました。
また、始めようと思ったものの、なかなかキッチンスタジオができる物件が見つからなくて、最初のうちは探す苦労もありました。
それでも、振り返ってみると、今の仕事をするようになってから、「なんで、私もっと早くに(会社を)やめなかったんだろう」と思うくらい、毎日が楽しいです。
今もキッチンを持続するための試行錯誤や苦労は絶えません。それでも、会社で仕事をして結果を出せなくて苦しんでいたときのつらさとはまったく違う。大変だと思いながらもどこかで楽しんでいる自分がいて、むしろ「今日が人生の中で一番楽しかった」と思える日をどんどん更新しながら、自分が生きているのを実感しています。
発酵食を通して「受け継ぐ」価値を伝える
現在、仕事の中で特に力を入れているのが、スタジオで、私自身が教えている発酵食の講座です。
私自身、奈良県でお味噌のクラスを開講している知人から教えてもらって、発酵食の魅力に目覚めました。
発酵食の面白さは育てる楽しみがあること。誰が仕込むかで味が変わるし、仕込む人の住んでいる環境によっても味が変化する。私の発酵食の講座でも、同じ日に同じ材料で、同じ気温、同じ湿度で仕込んでもらうのですが、持って帰ってお家で育てていくと、それぞれ全然違った味になっていきます。
人はそもそも身体の中に「常在菌」というものを持っています。
それは実は家族で代々引き継がれてきたものでもあります。子供が生まれるときに母親の菌を浴びて出てきて、生まれてからは、お母さんがにぎったおにぎりや作った料理を食べて菌を受け取る。そうやって菌を受け継ぐことで、その家、その家族の独自の菌、発酵食の味がおばあちゃんからお母さんに、お母さんから子供へ受け継いで作られていくんです。
「Kitchen Bee」の発酵食のクラスはかなり種類が増えて、お味噌、醤油はもちろん、醤油は濃口、薄口、白醤油など、さらに、みりんのクラスも開講しています。日本のものだけでなく、キムチやコチュジャンなども作っていて、いずれはすべての発酵食をスタジオで教えていきたいです。
元来、親から子供へ引き継がれるものである発酵食を通して、お母さんからもらった味を「受け継ぐ」ことの価値や、受け継ぐことの中にある母性や愛情の大切さを伝えていく。
それこそが私にとってのミッションではないかと思うので、「Kitchen Bee」に来てくださる人たちに、私なりにどんどん広げていけたらと思っています。
梅村小百合・プロフィール
会社員を経て独立。キッチンスタジオ「Kitchen Bee」を立ち上げ、同スタジオにて味噌や醤油作り、キムチ作りなどの講座・ワークショップを開講し、発酵食の奥深さや楽しみ方を伝えている。IT系コミュニティ「ものくろキャンプ」の運営にも携わる。2018年「Kitchen Bee」と「ものくろキャンプ」を法人化し、株式会社あみだすを設立。代表取締役に。
一般社団法人国際発酵食医膳協会 伝統発酵醸師。
好きなものは「旅」と「発酵」と「バレエ」と「建築」。
「Kitchen Bee」公式サイト:https://kt8.jp/
株式会社あみだす:https://amid.co.jp/
取材・文:田下愛 撮影:土田有紀恵
コメント