「線をなぞる、切りとる文具~きりえや・高木亮の仕事場」にご登場いただいたきりえ作家・高木亮さんのインタビューです!
――きりえ作家のお仕事を始めるきっかけはなんだったですか?
高木亮(以下高木):もともと絵は好きで描いていました。自分にフィットする表現方法は何だろうとずっと探していたんですが、たまたま大学在学中に友達が作る学内の冊子の表紙を作ってほしいと頼まれたことがあったんですね。それで、当時東君平さんが大好きだったので、真似してみようかなと切って作ってみた。そしたら、なんだかはまって、それからずっと続けている感じです。
――大学を卒業されて、すぐプロのきりえ作家として独立されたんですか?
高木:そうです。大学の最終学年のときに文化祭で教室を借りて展示をやったんですが、ちょうど、そのとき辻仁成さんが文化祭のイベントに出演されることになったんです。辻さんは東君平さんの親戚で、あと、僕自身辻さんがボーカルを担当していたECHOES(エコーズ)」の曲を聴いていたので、せっかくだから展示を見てほしいなと辻さんに手紙を書いたら見に来てくれたんです。次の日に、辻さんから「今度、連載を始めるので、挿絵をやりませんか」というお話をいただいて、「これでもうやっていけるんじゃないか」と思って卒業して始めました。ただ、その後は、大変なこともありましたね。
――「きりえや」というお名前は、いつから名乗っていらっしゃるんですか?
高木:2000年くらいからですね。当時、仕事が来るのを待ってやっていたら、なかなか立ち行かなくなってしまって、さらに、仕事が自分がいいと思う形にならないときがあったんです。僕の名前で僕のキャラクターで出しているのに、僕自身がいいと思えない。それで悩んでいたら、奥さんから「そんなふうに悶々としているなら、自分がいいと思うものをそのままの形で出して、見てくれる人に問えばいいじゃない」と言われて、そのときから、自分の手で絵ハガキなどを作り始めたんです。それで、当時作家が作品を販売するアートイベントに出たときに、初めて「きりえや」と名乗りました。エントリーするお店の名前をどうしようと思って、「きりえを作って売るんだから『きりえや』でいいんじゃないか」という安易なつけ方だったんですけれど。
――現在、おもなお仕事はどのようなことをされていますか?
高木:連載の仕事をいただいたり、あとは単行本を出したり、自分で描いた絵の絵ハガキやグッズを売ったり卸したりしています。
――高木さんのきりえは猫など動物がモチーフになっているものが多いですよね。
高木:きりえを始めてから、動物を描くことが多くなりました。もともと自分の心象風景や思いをそのまま絵にする私小説のような描き方でスタートしたのですが、それを人間で描くと生々しくなってしまうので、モチーフとして動物を使うようになったんです。以前、新聞の連載をしていたときは、猿を主人公にして子供の頃の心象風景を描いていました。きりえを描くときは必ずキャラクターを配置して、見ている人が自分の視線を託せるような存在を入れる。そういう作品が自分の場合は多い気がします。
――一枚のきり絵を完成させるのに、どれくらいの時間を使うんですか?
高木:よほど大きいものでないかぎり、切る作業自体は一日~二日ですね。ただ、下絵を作るまでにかかる時間は絵によって全然違います。イメージがあっても自分の技術が追いつかないときもあるし、何か足りないなと思って半年くらい寝かせるものもある。なんとなく頭にイメージは浮かんでわかっているけれど、手のほうまで降りてこなくて、なかなか実体化できなくてもどかしいときもあります。
――実際、絵のアイデアは、どんなところで思いつくんでしょうか?
高木:風景の場合は脈絡なく突然浮かぶときもあれば、「作らなきゃ」って紙に向かっていて出てくるときもあります。シリーズで作っている映画や文学のパロディの「偽本」のようなバカなネタのときは、お風呂に入っているときとか寝る前にちょっと頭をめぐらせて面白いのが浮かんだらメモして…という感じですね。
――今回、「MIZUTAMA」で高木さんにお話を伺おうと思ったきっかけは、満寿屋さんのオリジナルノート「MONOKAKI」の表紙デザインのお仕事を拝見したことでした。なので、あのノートのデザインをすることになった経緯をぜひお聞きしたいです。
高木:満寿屋は浅草の老舗の原稿用紙屋さんで、五代目になる専務さんから依頼をいただきました。専務さんご自身が文房具好きで、なおかつお客様の要望もあって、満寿屋オリジナルの紙のノートを作りたいということになった。製品のコンセプトとして、和風のレトロな感じをイメージしていたときに、たまたま僕の作った絵ハガキを見て「きりえっていいかも」と思ったそうです。専務さんが見た絵ハガキはちょうどきりえの飾りで周りを縁取ったもので、それにインスピレーションを受けて連絡をとってきてくださり、作ることになりました。
――「MONOKAKI」に描かれた縁取りは、万年筆や文房具などが入ったデザインになっていますね。
高木:最初に僕が提案したのは、ランプやステンドグラスなどが入った昭和レトロなデザインで、罫線が入ったノートは、ほぼそのデザインになっていますね。ただ、専務さんの要望でモンブランの万年筆を入れました。無地のノートの方は、文具や書斎にまつわるものをたくさん詰め込もうということで、ペリカンの万年筆「スーベレーン」や消しゴム、筆ペンや鉛筆を削るナイフとか、セロテープ、コンパス、硯、コーヒーカップとかいろいろ入っています。今見ても、よくこんなに入れたなと思いますね。
――「MONOKAKI」のお仕事をきっかけに万年筆に興味を持ってお使いになっている
とのことですが、ボトルインクも使われているんですか?
高木:使っています。最初はカートリッジだったんですが、しばらくしてボトルが欲しくなりました。万年筆使いだすとそうなりますよね。最初は色彩雫の「月夜」。それから、いろいろ試してみて、今は「月夜」よりも明るめの青が好きになったので「天色」を使うようになりました。インクは他にもペリカンの「エーデルシュタイン・マンダリン」など、いくつか使っているものがあります。
――今後お仕事は、どんなふうに続けていきたいと思っていますか?
高木:自分の作る態度はずっと変わらないと思うんです。頭の中に浮かんだことや心の中で考えた「いいな」と思うこと、「素敵だな」と思う景色を作り続けるだろうし、そういうものしか作れないので。そして、作った作品がより多くの人の目に止まって、好きになってもらえたらいいなと思います。たくさんの人が共感してくれるようになれば、仕事も続いていくし、作品作りもより楽しくなるかなと思います。
きりえや・高木亮 プロフィール
お話も作るきりえ画家。
1971年香川県生まれ。神奈川県川崎市在住。
大学在学中独学にてきりえ制作を開始。のち「きりえや」を名乗る。
ポストカードやカレンダー等グッズ制作、個展や各種メディアを通じて作品を発表。
叙情的風景からひねりの利いたパロディ作品まで、 多岐に渡る作品中に通底するのは「かわいくて、おかしくて、少しだけ寂しい」世界。
ホームページ http://kirieya.com/
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twitter @kirieya
取材・文:田下愛 撮影:土田有紀恵
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